2005年10月08日

音楽の「言語性」とは?(28)

アルベール・ルーセルの音楽はいったい「どこまで」聴かれているだろうか?年齢的にはドビュッシーとラヴェルの丁度真ん中であるこの作曲家は、有名な前後の二人は勿論のこと、やや年上のデュカスやサティ、あとの世代である「五人組」オネゲルやミヨー、プーランクなどと比べても明らかに「知られていない」存在である。しかしながら、彼はヴィーンにおけるツェムリンスキーの「位置」同様に、ドビュッシーから「五人組」へのミッシング・リンクなのであって、しかも、ツェムリンスキーの場合よりもっと際立って「独自で」「個性的な」存在なのである。
とはいっても晩成型だった(晩学でもあった)この作曲家は「そのような存在」になるまでかなりの時間を要しており、当初はどう見てもドビュッシーの「エピゴーネンの一人」でしかないものが、後年はまったく「嘘のように」強烈な個性を発揮するに至るさまは(作風は全く違うが)やはりフランクを思い出させる。(その「成熟した作品」が少なく、しかし「粒より」であるところも。)彼もまた「ご多分に漏れず」そのフランクの「伝統」を受け継いでいるのだが、その「純音楽路線」を形骸化させることなく見事に構築性を確立させている作風は実に見事であり、ほかに「似たような作曲家」も思い出させる余地も無いほど「完成された」ものである。
曖昧さや折衷的なものを全く感じさせないその音楽は、同時に独特の「フモール」を帯びてもおり、
特にアレグロ楽章における非常に律動的なリズムの扱いも相まって、聴き手に強烈な印象を与える。(この「耳慣れなさ」こそが、この作曲家がこうむっている意外な「冷遇」の原因かも知れないのだが。響きはむしろ固く、滑らかでなく、はなはだ対位法的でもあり、そのために一般に「フランス音楽」に期待される「イメージ」とは程遠い。私にはこの音楽はベートーヴェンの一部の作品に見られる特徴や、バルトークの作品のあるものに極めて近い特質を持っているように感じられる。)
あえて(ドイツ語の)「フモール」というくらいであるから例えば後年のミヨーや、特にプーランクによく見られる、いわゆる「軽妙酒脱」さ(とも表現される)を指向した(「より軽い」音楽への傾倒や旋律への欲求に根ざした)音楽の「流れ」の中に既存の「形式」がはめ込まれた(もしくは単純に「媒体」として利用された)様式とも本質的に異なり、また逆に極めて「シリアスな」作曲家オネゲルに見られる「息詰まるような」諧謔(を装ったもの)の表出(と呼ぶにはあまりに痛々しいが)でもなく、ここでは音楽の「語法」そのものが奇しくも基本的なレヴェルで「そのような表現」に適合しやすいものになっており、いわば自然に「その特質」が音楽に「備わってくる」のである。
それは「新しい語法」とか「新機軸」とかいうよりは明らかに「個性」というべきであるが、(ベートーヴェンの場合同様、彼もその気になれば「旋律に熱中する」ことも出来たし、耳ざわりのよい和声、或いは=初期の作品のように=模糊とした雰囲気を作り出すことも出来た。しかしそれらは自分にとって「本質的ではない」ことを前者は「知っており」、後者は「発見した」のである。)しかし類例がないだけにこれは「誤解」もされやすく、慣れない耳にはともすると「あまりシリアスでない」のようにも響くのである。(或いは「乾いている」、「落ち着かない」。)しかし彼が用いるのは「交響曲」やソナタ形式を持つ伝統的な「室内楽曲」といったものであり、例えばプーランクの協奏曲の類よりもはるかに「まっとうな」外観をしているだけに違和感はもっと拡大されがちでもある。
(そして、大抵は「そこで終わってしまう」ようである。)しかし、それはヒンデミットなどの「交響曲」よりももっと「正統的な」交響曲であり、緻密で無駄のない作品なのである。
ベートーヴェンの「第7」、特に「第8」に慣れた聴き手であれば、ルーセルの「語法」にさえ馴染めばその「第3」「第4」の「価値」について見誤ることも無かろうし(それにしてもフランスで「四楽章で」まっとうな交響曲の傑作を書いたのは彼くらいのものである。)、中期、特に後期のバルトークを好む者はルーセルも理解するであろう。彼が似ているのはフランスの作曲家達ではなく、この二人や=どんなに意外に思えようとも=中期のマーラーである。
曲全体の「長さ」としては下手をするとマーラーの一楽章分しかないルーセルの作品だが、その本質=特に「フモール」の要素については或いはかなり「影響」を勘ぐりたくなるほどの共通性が感じられるのである。(以降、次回。)
ラベル:音楽
posted by alban at 22:37| Comment(0) | TrackBack(1) | 音楽 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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