2007年08月04日

音楽の「言語性」とは?(123)

ショスタコービチの交響曲第9番の第2楽章は、ベートーヴェン、ブルックナー、マーラーなどの有名な「先例」があるにも関わらず、「通常の配置」に従って緩徐楽章を置いている。
これは第2楽章にスケルツォを置くことの方が多い彼としては「むしろ例外的」な措置であり、パロディカルであるとは言え、妙に「古典ぶった」第1楽章の「続き」としては「この方が適当」であるにせよ、これも「第9であること」を意識した結果と見る事も出来よう。
前述通り、冒頭楽章の規模が後続楽章の長さを制限しており、この第2楽章も彼の緩徐楽章としては極めて短いものの一つであるが、果たして「その分簡潔に」「無駄無く」書けているかと必ずしもそうでもなく、「短さ」は美点であるにせよ、実態は「いつものショスタコービチ」に戻ってしまう。
第一主題の分散和音+四度音程の構造は既に述べた通り、冒頭楽章から受け継がれたものであるが、半音階進行が節目ごとに現れるために、かなり違った印象を与え、単旋律に近い進行、同じ音色、似たような動きが続き、活発な第1楽章と対照的に「停滞感」が顕著であって、晩年に向かって登場の機会が多くなる独特の「薄い音楽」の端緒の一つとなっている。
第一主題部に感じられる「夜の音楽」の性格は、続く第二主題の半音階的に緩やかに上下する薄気味悪いスロー・ワルツによって強められるが(この「夜の感じ」は、彼が特に好んだ曲と伝えられるマーラーの「第7」の中間三楽章との共通性が感じられる。特に、マーラーの「第1夜曲」第2楽章の開始部、終結部や、ワルツのパロディである第3楽章スケルツォの曲想と類似している。)、第一主題とは対照的に和声的に滑るようなこの主題は、低音部では第一主題と同様の動きを繰り返しており、外見ほどには相違しておらず、むしろ「継続」の感じが強い。
第2楽章の主たる「材料」はこの二つのみであり、第二主題がヒステリックに盛り上がった後、彼の作品で頻出する「お決まりのフレーズ」の経過句が現れる他は(これ自体も後半部で反復される)、二部形式を乱すものは現れない。(第一主題部をもう少し簡潔にすれば「短い中間部」位は置けたであろうが。)
後半部は相応の変化を受けるが、高音域に移る第二主題部が幾分「安息の感じ」を醸し出し、楽章を落ち着かせる。この音楽は極めて印象的ではあるが、若いプロコフィエフが彼の「第1交響曲」で、どんな緩徐楽章を書いたか知っている者にとっては、何か「期待を裏切られた」気分にさせられる。
(第1楽章が、どうしてもプロコフィエフのこの曲を想起させるのは否めない所である。)
この「脱線」は、「モティーフ操作」の効果など亡き者にしてしまい、二楽章目にして早々に確立された「様式上の不一致」は、ここで聴き手に疑問を抱かせるものとなるが、これは後続楽章の責任というよりは、明らかに第1楽章における「意識し過ぎ」「作り過ぎ」「やり過ぎ」に起因していると思われる。
このため第3楽章は「メヌエット」(無論「ガヴォット」であるはずもない。)ともならず、彼本来の「スケルツォ」に「逆戻り」するはめになる。
「軌道修正」のためか、彼はここで「いつもの」皮肉っぽいスタイルよりは余程「軽い」、「メンデルスゾーン風な」ものを試そうとしたと思われる。
彼としては珍しい八分の六拍子を採るが、無窮動風のクラリネットに始まる主題が冒頭楽章の「分散和音の開始」を踏襲し、続く弦の弱奏が前楽章の第二主題と共通の「半音階の動き」を引き継いでいるなどの「配慮」はあるにせよ、実際には、誰でも気付く、中間部のトランペットによる「軍隊風」主題の酷似に見られるように、あくまで「第8」の第3楽章の延長線上にあるものに留まっている。(このスケルツォを何故か「高く評価する」向きもあるようだが、それはおそらく、珍しくも「メンデルスゾーン風」な所が「良く見える」のであろう。)
主部の再現が脱力していくように「解体する」新機軸はあるにせよ、「第8」同様の次の楽章へのアタッカの形成も前作のような、非常に「劇的なクライマックス」を呼び込む訳にも行かず、その「意気消沈」するような移行は、楽章の当初のコンセプトと合致していないだけでなく、よもやと思わせる、ここまで避けていた筈のベートーヴェンの「第9」への「直接的な言及」がトロンボーンの強奏の後で現われ、今度は「オペラティックな局面」が召喚される、という、しばしば退屈で無い事も無い、彼の交響曲でも一際立った「目まぐるしさ」である。(以降、次回。)

タグ:音楽
posted by alban at 21:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 音楽 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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