2008年04月19日

音楽の「言語性」とは?(148)

冷水を浴びさせられる羽目になったこともあるにせよ、ごく若くして成功を収め、善かれ悪しかれ、注目を浴び続けてきた「恵まれた存在」であったショスタコービチではあったが、真に「それにふさわしい存在」であったかは疑わしく、「傷の多い作品」の羅列の挙げ句、掛け値なしの「傑作」、それも「最高傑作」と呼び得る作品が生まれたのは、彼のスタイルがとうの昔に「時代遅れ」と見なされ、創作力の枯れ果てた「恐竜のような存在」と思われた頃になってからだった。
とは言っても、それまでと同様、ベートーヴェンばりに「傑作の森」が続く訳では勿論無く、一般には彼の「晩年の境地を示す」とか言われる室内楽系の作品に典型的な、気難しく痩せたテクスチュアが目立つ「貧相な響きの音楽」が基調である作品の中、突発的に「傑作」が散見されるに過ぎない訳だが、何故か「歌入り」の作品ではその書法が良いバランスを作り出し、言葉と音楽が融和した彼独自の「傑作」を見いだし得ることになる。(実際、彼の晩年の作品から「めぼしいもの」を選び出す、ということになると、「歌入り」の作品が大半を占めるだろう。不思議なことに、老いたショスタコービチは「歌」が付くと「スカ」を出さなくなっているのである。特に「第13」「第14」「ミケランジェロの詩による組曲」は、どれも彼の「最重要作」ということになるだろう。)
その中でも疑いなく「最高の出来」であるのは「交響曲第14番」と名付けられた十一曲の「歌」を綴り合わせた作品だが(これに「死者の歌」とかいうオカルティックな副題を付けて呼ぶことがあるようだが、どうにも間違いとしか言いようの無いもので、「その名にふさわしいような詩」は扱われておらず、作曲者の意図に沿っているとも思えない。)、外形から言えば「十一」という「いささか多すぎる楽章数」や、「全体に渡って歌が支配する」構成、「管楽器抜き」の弦と打楽器によるオーケストラ編成からは「交響曲」という名はふさわしくないようにも見える。
しかしこれは毎度お馴染みの「ご乱心」から「そう呼ばれている」訳では無く、これよりは「交響曲らしく見える」「第13」と時とは違って、彼は初めから「交響曲」として構想したことがはっきりと述べられており、実際、彼としては緊密な書法や構成がそれを裏付けている。
但し、この曲からマーラーの「大地の歌」を連想しない聴き手は少なかろう。「死」を主たるテーマとした作品と思われること、男声と女声が楽章ごとに交替しながら進むことや、マーラーの「テノールとアルト」に対して(マーラーではアルトでなくバリトンで歌われることもあり、作曲家もそれを想定していた)ショスタコービチが「ソプラノとバス」を用いていることも彼が十分に「意識した結果」であることを示しており、これを「交響曲」として仕上げる気にさせた理由にマーラーの作品がかなり影響しているのは誰の目にも明らかである。
これに加えて「重要な関係」について彼の口から述べられており(この作品に関してはショスタコービチは多くの「正しい情報」を提供している。)、彼がマーラーと並んで「生涯に渡り影響を受け続けた存在」であるムソルグスキーの傑作の一つである歌曲集「死者の歌と踊り」に、彼がオーケストレーションを施す機会があったのだが、その際に、この作品の「不足分」を感じ、彼なりに「続編」を書こう、という気になった(これは「歌曲集」とは言っても四曲しか無く、音楽の「分量」としても確かに充分では無いきらいは確かにある)、というのが大きな契機であった、というのである。
先輩作曲家には常に「謙虚な態度」を示すショスタコービチとしてはこれは珍しいことであろうが、「死」というものが当時の彼にとって「近しい存在」であったこと、長年の病気の末、「死」に直面するような事態に陥る状態にあり(実際この作品は病院で完成したと伝えられる)、その非常に切迫した心境が作用してか、「続編」が「本編以上の出来」を示す、という滅多に無い事態を呼び起こした。(ホルストの「惑星」に「冥王星」を付け足す、というような愚行=これには本物の「冥王星」が「惑星」から「除名される」というケッサクこの上ない「オチ」が付くことになったが=とは違い、このような「真の続編」であるような例は、他に思い浮かばぬほどである。)
この曲に感じられる異常なまでのリアリズムは、まさにその「状況」がもたらしたものであろうが、
ここでの彼は「情に溺れる」チャイコフスキーのような轍を踏まず、むしろ冷静に、厳しく高いテンションで描ききって我々を驚かせる。
「感傷味」の一切無い静謐さと背中合わせの不気味に落ち着いた響きも、彼独特の皮肉に乾いた諧謔も、無類の完成度で立ち現れ、いつもの彼には長過ぎる一時間弱を短く感じさせるが、その緊密さは確かに「交響曲」と呼ばれるにふさわしく、その名を正当化する。(以降、次回。)




タグ:音楽
posted by alban at 20:27| Comment(1) | TrackBack(0) | 音楽 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。